(二十二)喜びの山々
それから二人は進んで行き、〈喜びの山々〉に着いた。この山々は、前に述べたあの丘の主のものである。そこで二人は山に登り、庭や果樹園、ぶどう畑や泉を眺めた。二人はそこで水を飲み、体を洗い、ぶどう畑の実も思うままに食べた。さて、この山々の頂には羊飼いたちがいて、羊の群れを飼っていた。羊飼いたちは大路のわきに立っていた。そこで巡礼者たちは彼らのところへ行き、杖に寄りかかった。疲れた巡礼者が道で誰かと立ち話をするときには、よくそうするものである。そして二人は尋ねた。
「この喜びの山々は、どなたのものですか。ここで草を食べている羊は、どなたの羊ですか」
今、二人は喜びの山々に登るそこには羊飼いたちがいて、二人に勧める心ひかれるものと、戒めとなるものとを。巡礼者は、信仰と恐れによって揺るがずに保たれる。
羊飼い「この山々は〈インマヌエルの地〉で、インマヌエルの都が見えるところにあります。羊もこの方のものです。この方は、羊のためにいのちを捨てられました(ヨハネ一〇・一一)」
クリスチャン「これは天の都へ行く道ですか」
羊飼い「まさにその道を歩いておられます」
クリスチャン「そこまで、どのくらいの道のりですか」
羊飼い「本当にそこへたどり着く人のほかは、誰にとっても遠すぎる道のりです」
クリスチャン「その道は安全ですか。それとも危険ですか」
羊飼い「安全であるべき人には安全です。しかし、罪びとはそこでつまずきます(ホセア一四・九)」
クリスチャン「この場所には、旅の途中で疲れて弱った巡礼者を助けてくれるものがありますか」
羊飼い「この山々の主は、旅人をもてなすことを忘れてはならない、と私たちに命じておられます。ですから、この地の良いものは、みなあなたがたの前にあります(ヘブル一三・一〜二)」
また私が夢の中で見ていると、羊飼いたちは、二人が旅人だと知ると、今度は自分たちから、どこから来たのか、どうやってこの道に入ったのか、どうやってここまで道を守り通したのか、と尋ねた。二人はほかの場所でしたのと同じように答えた。ここへ来ようと歩み出す者は多いが、この山々に顔を見せる者はわずかしかいないからである。羊飼いたちは二人の答えを聞いて喜んだ。そして、二人をたいへん愛情深く見つめて言った。
「喜びの山々へようこそ」
さて、この羊飼いたちの名は、〈知識〉、〈経験〉、〈用心〉、〈誠実〉といった。羊飼いたちは二人の手を取って自分たちの天幕に連れて行き、ちょうど用意してあったものをふるまった。そして、さらにこう言った。
「しばらくここに留まってください。私たちと親しくなっていただきたいのです。それにもまして、この喜びの山々の良いものを味わって、心を慰めていただきたいのです」
二人は、喜んで留まると答えた。そして、夜もすっかり更けていたので、その晩は休んだ。
それから私が夢の中で見ていると、朝になって、羊飼いたちはクリスチャンと〈希望〉に声をかけ、いっしょに山を歩こうと誘った。そこで二人は羊飼いたちと出かけ、しばらく歩いた。どちらを見ても、心地よい眺めが広がっていた。すると羊飼いたちは互いに言った。
「この巡礼者たちに、不思議なものをいくつか見せてはどうでしょう」
そうしようと決まると、羊飼いたちはまず二人を〈誤り〉という丘の頂に連れて行った。その丘は、向こう側がひどく切り立っていた。羊飼いたちは二人に、ふもとを見下ろすように言った。クリスチャンと希望が見下ろすと、ふもとに何人もの男が倒れていた。頂から落ちて、粉々に砕けていたのである。クリスチャンは言った。
「これはどういうことですか」
羊飼いたちは答えた。
「ヒメナオとピレトに耳を貸して、体の復活の信仰について誤りに陥った人たちのことを、聞いたことはありませんか(第二テモテ二・一七〜一八)」
二人は、はい、と答えた。すると羊飼いたちは言った。
「この山のふもとに砕けて倒れているのが、その人たちです。ご覧のとおり、今日まで葬られずにいます。ほかの人たちへの見せしめとして、高く登りすぎたり、この山の崖っぷちに近づきすぎたりしないよう、気をつけさせるためです」
それから私が見ていると、羊飼いたちは二人を別の山の頂に連れて行った。その山の名は〈警戒〉という。羊飼いたちは二人に、遠くを見るように言った。二人がそうすると、そこにある墓の間を、何人もの男が行ったり来たりしているのが見えたように思った。男たちは目が見えないのだとわかった。ときどき墓につまずき、また墓の間から抜け出せずにいたからである。クリスチャンは言った。
「これはどういうことですか」
すると羊飼いたちは答えた。
「この山々の少し下で、この道の左手に、牧場へ入る踏み越し段があったのを見ませんでしたか」
二人は、はい、と答えた。すると羊飼いたちは言った。
「あの踏み越し段から、まっすぐ〈疑いの城〉へ通じる小道があります。その城を守っているのは巨人〈絶望〉です」
羊飼いたちは、墓の間にいる男たちを指さして続けた。
「あの人たちも、かつては今のあなたがたと同じように巡礼の旅をしていて、あの同じ踏み越し段まで来ました。ところが、そのあたりで正しい道が荒れていたので、道を離れてあの牧場へ入ることを選びました。そして巨人絶望に捕らえられ、疑いの城に投げ込まれました。しばらく地下牢に入れられていたあと、とうとう巨人に目をえぐり取られました。そして、あの墓の間に連れて行かれ、今日までそこをさまようままにされているのです。こうして、『悟りの道を離れる人は、死人の集会の中におる』という知者の言葉が成就したのです(箴言二一・一六)」
クリスチャンと希望は顔を見合わせ、涙をあふれさせた。けれども、羊飼いたちには何も言わなかった。
それから私が夢の中で見ていると、羊飼いたちは二人を谷間の別の場所に連れて行った。そこには、丘の中腹に戸があった。羊飼いたちはその戸を開け、二人に中をのぞくように言った。二人がのぞいてみると、中はひどく暗く、煙が立ちこめていた。また、火の燃えるようなごうごうという音と、苦しめられている者たちの叫び声が聞こえたように思った。硫黄のにおいもしたように思った。クリスチャンは言った。
「これはどういうことですか」
羊飼いたちは答えた。
「これは地獄へのわき道です。偽善者たちが入って行く道です。すなわち、エサウのように長子の権利を売る者、ユダのように主を売る者、アレキサンデルのように福音を汚す者、アナニヤとその妻サッピラのように偽り欺く者たちです」
すると希望は羊飼いたちに言った。
「この人たちもみな、今の私たちと同じように、巡礼者の姿をしていたのですね。そうではありませんか」
羊飼い「そうです。しかも、長いあいだその姿を保っていました」
希望「結局はみじめに捨てられてしまったとはいえ、この人たちは、生きているうちに巡礼の道をどこまで進んだのでしょうか」
羊飼い「この山々より遠くまで行った者もいれば、ここまで来なかった者もいます」
すると巡礼者たちは互いに言った。
「私たちは、力ある方に力を求めて叫ばなければなりませんね」
羊飼い「そうです。そして力をいただいたら、それを使わなければならないでしょう」
このころには、巡礼者たちは先へ進みたいと思っていた。羊飼いたちも、そうさせたいと思っていた。そこで一同は、山々の端のほうへいっしょに歩いて行った。すると羊飼いたちは互いに言った。
「ここで巡礼者たちに、天の都の門を見せてあげましょう。私たちの遠眼鏡をのぞく腕があればですが」
巡礼者たちは、喜んでその申し出を受けた。そこで羊飼いたちは二人を、〈澄明〉という高い丘の頂に連れて行き、遠眼鏡を渡してのぞかせた。二人はのぞこうとした。けれども、羊飼いたちに最後に見せられたもののことを思い出して、手が震えた。そのため、遠眼鏡をしっかりのぞくことができなかった。それでも、門のようなものと、その場所の栄光のいくらかが見えたように思った。それから二人はそこを離れ、こう歌った。
「こうして羊飼いたちによって、秘密が明かされるほかのすべての人々には隠されている秘密が。それなら羊飼いたちのもとへ来るがよい、見たいと願うなら深いこと、隠れたこと、奥義に満ちたことを」
二人が出発しようとすると、羊飼いの一人が、道筋を記した書きつけを渡した。二人目は、〈へつらい者〉に気をつけるようにと言った。三人目は、〈魔法の地〉で眠り込まないようにと注意した。そして四人目は、神の祝福を祈って二人を送り出した。こうして私は夢から覚めた。