ジョン・バニヤン『天路歴程』

(二十一)わき道の牧場と巨人絶望

私が夢の中で見ていると、二人がまだそれほど進まないうちに、川と道がしばらく分かれてしまった。二人はそれをずいぶん残念に思った。けれども、道から外れる勇気はなかった。川から離れた道は荒れていた。二人の足は、長い旅のために傷みやすくなっていた。そのため、巡礼者たちはその道に堪えがたくなった(民数記二一・四)。そこで二人は、歩きながらも、もっと良い道があればと願い続けた。さて、少し先の道の左手に牧場があり、そこへ越えて入るための踏み越し段があった。その牧場は〈わき道の牧場〉と呼ばれていた。クリスチャンは連れに言った。

「この牧場が私たちの道に沿って続いているのなら、越えて入りましょう」

そこで彼は、踏み越し段のところへ見に行った。すると、柵の向こう側に、道に沿って小道が通っていた。クリスチャンは言った。

「願ったとおりです。ここなら、いちばん楽に歩けます。さあ、〈希望〉さん、越えて行きましょう」

希望「でも、もしこの小道が私たちを道から外れさせたら、どうしますか」

クリスチャン「そんなことはないでしょう。ご覧なさい、道のわきに沿って続いているではありませんか」

そこで希望は連れに説き伏せられて、彼について踏み越し段を越えた。小道に入ってみると、足にはとても楽だった。そのうえ、前を見ると、自分たちと同じように歩いている男が目に入った。その名を〈過信〉といった。二人は後ろから呼びかけて、この道はどこへ通じているのかと尋ねた。男は答えた。

「天の門へだ」

クリスチャンは言った。

「ほら、言ったとおりではありませんか。これで、私たちが正しいことがわかるでしょう」

そこで二人は男の後について行き、男は二人の前を進んだ。ところが、やがて夜になり、あたりはひどく暗くなった。そのため、後ろを行く二人は、前を行く男を見失ってしまった。

前を行っていた過信は、行く手の道が見えなかった。そして、深い穴に落ちた。それは、その土地の君主が、思い上がった愚か者を捕らえるために、わざと掘らせておいたものだった。過信は落ちた拍子に、粉々に砕けてしまった(イザヤ九・一六)。

クリスチャンとその連れには、彼の落ちる音が聞こえた。そこで二人は、どうしたのかと呼びかけた。けれども、答える者はなく、ただうめき声が聞こえるだけだった。希望は言った。

「私たちは今、どこにいるのでしょうか」

連れは黙っていた。自分が希望を道から外れさせてしまったのではないかと案じていたのである。そのうちに雨が降り出し、雷が鳴り、稲妻がまことに恐ろしく光った。水かさもみるみる増していった。

希望は心の中でうめいて言った。

「ああ、自分の道を離れずにいればよかった!」

クリスチャン「この小道が私たちを道から外れさせるなんて、誰が思ったでしょうか」

希望「私は初めから、それを恐れていました。それで、あのように控えめにご注意したのです。もっとはっきり言いたかったのですが、あなたは私より年上ですから」

クリスチャン「兄弟よ、気を悪くしないでください。あなたを道から外れさせ、こんなに差し迫った危険に遭わせてしまって、申し訳なく思っています。どうか許してください、兄弟よ。悪い心からしたのではないのです」

希望「安心してください、兄弟よ。あなたを許します。それに、このことがきっと私たちの益になると信じてください」

クリスチャン「あわれみ深い兄弟がいっしょにいてくれて、うれしく思います。けれども、ここで立ち止まっていてはいけません。引き返してみましょう」

希望「でも兄弟よ、私に先に行かせてください」

クリスチャン「いいえ、よろしければ、私に先に行かせてください。もし危険があれば、私が真っ先にそれに遭うようにしたいのです。私のせいで、二人とも道から外れてしまったのですから」

希望「いいえ、先に行かせるわけにはいきません。あなたは心が乱れているので、また道を外れてしまうかもしれませんから」

そのとき、二人を励ますように、ある人の声が聞こえた。『大路に、あなたの通って行った道に心を留めよ。帰れ』と言っていた(エレミヤ三一・二一)。けれども、もう水かさがひどく増していた。そのため、引き返す道はたいへん危険だった。私はこう思った。道の中にいるときに道から外れるのは、道の外にいるときに道に戻るよりもたやすいのだ、と。それでも二人は、思い切って引き返そうとした。しかし、あまりに暗く、水があまりに高かったので、戻る途中で九度も十度もおぼれそうになった。

その夜は、どれほど手を尽くしても、踏み越し段まで戻ることはできなかった。そこでとうとう、小さな雨よけを見つけて、夜が明けるまでそこに座っていることにした。けれども、疲れていたので、眠り込んでしまった。さて、二人が寝ている場所から遠くないところに、〈疑いの城〉と呼ばれる城があった。その持ち主は巨人〈絶望〉だった。二人が眠っていたのは、その地所の中だったのである。巨人は朝早く起きて、自分の畑を歩き回っていた。そして、クリスチャンと希望が自分の地所で眠っているのを見つけて捕らえた。巨人は恐ろしい無愛想な声で二人を起こし、どこから来たのか、自分の地所で何をしているのかと尋ねた。二人は、自分たちは巡礼者で、道に迷ったのだと答えた。すると巨人は言った。

「お前らはゆうべ、勝手に俺の地所に踏み込んで、寝そべっていた。だから、俺といっしょに来てもらうぞ」

二人はしかたなくついて行った。巨人のほうが強かったのである。それに、二人には言い分もほとんどなかった。自分たちに落ち度があるとわかっていたからである。巨人は二人を追い立てて城に入れ、ひどく暗い地下牢に放り込んだ。そこは汚く、二人の気が滅入るほどの悪臭がした。こうして二人は、水曜日の朝から土曜日の夜まで、そこに横たわっていた。一切れのパンも、一滴の飲み物も、明かりもなく、具合を尋ねてくれる者もなかった。二人はひどい有様で、友人や知人からも遠く離れていた(詩篇八八・一八)。この場所で、クリスチャンの悲しみは二重だった。二人がこの苦境に陥ったのは、彼の軽はずみな言葉のせいだったからである。

巡礼者たちは今、肉を満たそうとしてその安楽を求める。だが、ああ、そのためになんと新たな嘆きへ、また身を投じることか!肉を喜ばせようとする者は、自らを滅ぼす。

さて、巨人絶望には妻がいた。その名を〈不安〉といった。巨人は床に就くと、自分のしたことを妻に話した。二人の囚人を捕らえ、自分の地所に踏み込んだかどで地下牢に投げ込んだ、というのである。それから、この二人をこの先どうしたらよいかと妻に尋ねた。妻は、それはどんな者たちで、どこから来て、どこへ向かっているのかと尋ねた。巨人はそれを話した。すると妻は、朝起きたら容赦なく打ちたたくように、と夫に勧めた。そこで巨人は起きると、野りんごの木で作ったすさまじいこん棒を手にして、地下牢の二人のところへ下りて行った。そしてまず、犬にでも向かうように二人をののしった。二人は一言も気にさわることを言わなかったのに、そうしたのである。それから二人に襲いかかり、恐ろしいほど打ちたたいた。二人は身を守ることも、床の上で寝返りを打つこともできなかった。これが済むと、巨人は引き上げ、二人をそこに残した。二人がみじめさを嘆き、苦しみの中で悲しむに任せたのである。こうしてその日一日、二人はため息と激しい嘆きのうちに過ごすほかなかった。

次の夜、妻は夫と二人のことをさらに話し合った。そして、二人がまだ生きていると知ると、自分で命を絶つよう二人に勧めなさい、と夫に助言した。朝になると、巨人は前と同じように無愛想な様子で二人のところへ行った。そして、前の日に打った傷で二人がひどく痛んでいるのを見ると、こう言った。

「お前らは、もうこの場所から出られそうにない。だから、さっさと自分でけりをつけるのが唯一の道だ。刃物でも、首つり縄でも、毒でもいい。こんなに苦しみばかりの人生を、なぜわざわざ生きようとするのか」

けれども二人は、どうか放してほしいと頼んだ。すると巨人は恐ろしい顔つきで二人をにらみ、飛びかかってきた。発作さえ起こさなければ、きっと自分の手で二人を片付けていただろう。ところが、巨人は発作を起こしてしまった。日が照っていると、ときどき発作を起こすのである。そのため、しばらく手が使えなくなり、巨人は引き上げた。そして前と同じように、どうするか考えさせるために、二人をそこに残した。そこで囚人たちは、巨人の勧めに従うのがよいかどうか、二人で相談した。こうして二人は話し始めた。

クリスチャン「兄弟よ、どうしたらよいでしょうか。今こうして生きているのは、みじめなことです。私としては、このまま生きるのがよいのか、ひと思いに死ぬのがよいのか、わかりません。私の魂は、生きるよりも息の止まることを願います。この地下牢よりも、墓のほうが楽です(ヨブ七・一五)。巨人の言うとおりにしましょうか」

希望「確かに、今の私たちの有様は恐ろしいものです。このままいつまでもここにいるより、死んだほうが、私にもずっとありがたいでしょう。けれども、考えてみましょう。私たちが向かっている国の主は、『殺してはならない』と言われました。ほかの人を殺すことさえ禁じられているのです。まして、自分を殺せという巨人の勧めに従うことは、なおさら禁じられています。それに、ほかの人を殺す者は、その人の体を殺すにすぎません。しかし、自分を殺す者は、体と魂とを一度に殺すのです。そのうえ、兄弟よ、あなたは墓の中の安らぎのことを言われます。ですが、人殺しが必ず行く地獄のことを忘れたのですか。『人殺しはすべて、そのうちに永遠のいのちをとどめてはいない』のですから。それから、もう一度考えてみましょう。すべての権限が巨人絶望の手にあるわけではありません。私の知る限りでは、私たちと同じように彼に捕らえられながら、その手から逃れた人たちもいるのです。世界を造られた神が、巨人絶望を死なせてくださらないとも限りません。あるいは、巨人がいつか私たちに鍵をかけ忘れるかもしれません。あるいは、近いうちに、また私たちの前で発作を起こして、手足が利かなくなるかもしれません。もしまたそういうことが起こったら、私は男らしく勇気を奮い起こして、何としても彼の手から逃れようと心に決めています。前にそうしなかったのは、愚かでした。けれども、兄弟よ、ともかく辛抱して、しばらく耐え忍びましょう。幸いにも解き放たれるときが来るかもしれません。ただ、自分で自分を殺す者にだけはならないようにしましょう」

希望はこう言って、さしあたり兄弟の心を和らげた。こうして二人は、その日も暗闇の中で、悲しく痛ましい有様のまま、いっしょに過ごした。

さて、夕方近くになると、巨人はまた地下牢に下りて行った。囚人たちが自分の勧めに従ったかどうか見るためである。ところが行ってみると、二人は生きていた。とはいえ、ただ生きているというだけだった。パンも水もなく、また打たれたときの傷のために、もうほとんど息をすることしかできなかったのである。それでも、二人は生きていた。巨人はそれを見てひどく怒った。そして二人に、俺の勧めに背いたからには、生まれてこなかったほうがましだったと思うような目に遭わせてやる、と言った。

これを聞いて二人はひどく震えた。私の見たところ、クリスチャンは気を失ったようだった。けれども、少し正気に返ると、二人はまた巨人の勧めについて話し合った。それに従うのがよいかどうか、ということである。今度もクリスチャンは、そうするほうに傾いているようだった。しかし希望は、二度目の答えを次のように返した。

希望「兄弟よ、あなたがこれまでどれほど勇敢だったか、覚えていないのですか。アポリュオンもあなたを打ち砕くことはできませんでした。死の陰の谷で聞いたこと、見たこと、感じたことのすべても、あなたを打ち砕けなかったのです。あなたはすでに、どれほどの苦難と恐怖と驚きをくぐり抜けてきたことでしょう。それなのに今は、恐れるばかりなのですか。ご覧のとおり、私もあなたといっしょに地下牢にいます。私は生まれつき、あなたよりずっと弱い人間です。この巨人は、あなたと同じように私をも傷つけました。私の口からもパンと水を断ちました。私もあなたといっしょに、光のないところで嘆いているのです。けれども、もう少し辛抱しましょう。虚栄の市で、あなたがどんなに男らしくふるまったかを思い出してください。あなたは鎖も檻も、血を流す死さえも恐れませんでした。クリスチャンたる者が、こんな恥ずかしい姿をさらすのはふさわしくありません。せめてそれを避けるためにも、できる限り辛抱して耐えましょう」

さて、また夜になった。巨人とその妻が床に就くと、妻は囚人たちのことを尋ねた。巨人の勧めに従ったかどうか、というのである。巨人は答えた。

「しぶとい悪党どもだ。自分で始末をつけるくらいなら、どんな苦しみにでも耐えるほうを選ぶというんだ」

すると妻は言った。

「あしたあいつらを城の中庭に連れて行って、あんたがもう片付けた連中の骨やどくろを見せておやりよ。そして、一週間もしないうちに、前の仲間と同じように八つ裂きにしてやると思い込ませるんだね」

そこで朝になると、巨人はまた二人のところへ行った。そして城の中庭に連れ出し、妻に言われたとおり、骨やどくろを見せた。巨人は言った。

「こいつらも、かつてはお前らと同じ巡礼者だった。そしてお前らと同じように、俺の地所に踏み込んだ。だから俺は、気が向いたときに八つ裂きにしてやった。十日もしないうちに、お前らも同じ目に遭わせてやる。さあ、穴蔵へ戻れ」

そう言って、巨人は地下牢に着くまでずっと二人を打ちたたいた。こうして二人は、土曜日も一日中、前と同じように痛ましい有様で横たわっていた。さて、夜になり、不安夫人と夫の巨人が床に就くと、夫婦はまた囚人たちのことを話し合った。年寄りの巨人は、打っても勧めても二人を片付けられないのを、不思議に思っていた。すると妻が答えた。

「あたしが思うに、あいつらは誰かが助けに来るという望みを持って生きているんだよ。それとも、錠前を開ける道具を隠し持っていて、それで逃げ出せると思っているのかもしれないね」

巨人は言った。

「お前、そう思うか。それなら、朝になったらあいつらの体を調べてやろう」

さて、土曜日の真夜中ごろ、二人は祈り始め、夜明け近くまで祈り続けた。

夜が明ける少し前、善良なクリスチャンは、半ば我を忘れたように、激しい調子でこう叫び出した。

「ああ、私は何という愚か者でしょう! 自由に歩いて出られるのに、こんな悪臭のする地下牢に寝ているとは。私のふところには、〈約束〉という鍵があります。これなら、疑いの城のどんな錠でも開けられるに違いありません」

すると希望が言った。

「それは良い知らせです。兄弟よ、それをふところから取り出して、試してみてください」

そこでクリスチャンは、鍵をふところから取り出し、地下牢の戸で試し始めた。鍵を回すと、かんぬきが外れた。戸はたやすく開き、クリスチャンと希望は二人とも外に出た。次に彼は、城の中庭に通じる外の戸のところへ行き、その戸も鍵で開けた。そのあと、鉄の門のところへ行った。そこも開けなければならなかったからである。その錠はおそろしく固かったが、それでも鍵で開いた。二人は急いで逃げようと、門を押し開けた。ところが門は、開くときにひどくきしんだ。その音で巨人絶望が目を覚ました。巨人は急いで起きて、囚人たちを追いかけようとした。けれども、手足が言うことを聞かなかった。また発作に襲われたのである。そのため、どうしても二人を追うことはできなかった。それから二人は進んで行き、ふたたび王の大路に出た。そこは巨人の支配の及ばないところだったので、二人は安全だった。

さて、踏み越し段を越えると、二人は相談した。あとから来る人たちが巨人絶望の手に落ちないように、この踏み越し段のところで何をしたらよいか、ということである。そして、そこに柱を一本立て、その側面に次の言葉を刻むことにした。『この踏み越し段の向こうは、疑いの城への道である。その城を守る巨人絶望は、天の国の王を侮り、その聖なる巡礼者たちを滅ぼそうとしている』。そのため、あとから来た多くの人が、書かれたことを読んで危険を免れた。これが済むと、二人は次のように歌った。

「道から外れた私たちは、そこで思い知った禁じられた地を踏むのが、どういうことかを。あとから来る者は、気をつけるがよい不注意から、私たちと同じ目に遭わぬように。地所を侵したかどで、囚人とならぬようにその城は疑い、その名は絶望という者の」