(十八)安楽の野とデマスの銀山
クリスチャンと〈希望〉は、また彼らを引き離して進んだ。やがて二人は、〈安楽〉という心地よい野に着いた。二人はそこを、大いに満ち足りて歩いた。けれども、その野は狭かったので、すぐに通り過ぎてしまった。野の向こうの端には、〈利得〉という小さな丘があった。その丘には銀山があった。以前この道を通った人々の中には、銀山が珍しいので、わき道にそれて見に行った者たちがいた。けれども、穴の縁に近づきすぎると、足もとの地面は見かけと違ってもろく、崩れ落ちた。こうして、その人たちは死んだ。また、そこで体を損ない、死ぬ日まで元の自分に戻れなかった者もいた。
私が夢の中で見ていると、道から少し外れた、銀山の向かいに、デマスが立っていた。紳士然として、通りかかる人に、来て見るようにと呼びかけていた。デマスはクリスチャンとその連れに言った。
「おーい、こちらへ寄っていきなさい。よいものをお見せしましょう」
クリスチャン「道からそれてまで見る値打ちのあるものとは、いったい何ですか」
デマス「ここに銀山があって、何人かが宝を掘っています。来てごらんなさい。少し骨を折るだけで、たっぷり財産をこしらえられますよ」
希望「行って見てみましょう」
クリスチャン「私は行きません。この場所のことは前から聞いています。ここで大勢の人が死んだことも聞いています。それに、あの宝は、それを求める者にとってわなです。巡礼の妨げになるのですから」
そこでクリスチャンは、デマスに呼びかけて言った。
「ここは危ない場所ではありませんか。これまで大勢の人の巡礼を妨げてきたのではありませんか(ホセア九・六)」
デマス「不注意な人でなければ、たいして危なくはありませんよ」
けれども、そう言いながら、デマスは顔を赤らめた。
クリスチャン「あちらへは一歩も寄らずに、このまま道を進みましょう」
希望「請け合ってもいいですが、〈下心〉が追いついてきて、私たちと同じように誘われたら、きっと見にそれていきますよ」
クリスチャン「そうに決まっています。あの人の主義が、そちらへ向かわせるのですから。百のうち九十九まで、あの人はあそこで死ぬでしょう」
デマス「それでも、こちらへ見に来ないのですか」
クリスチャン「デマスよ、あなたはこの道の主の、まっすぐな道に敵対する者です。あなたは自分がわき道にそれたために、王に仕える裁き人の一人から、すでに罪に定められています(第二テモテ四・一〇)。それなのに、なぜ私たちまで、同じさばきに陥れようとするのですか。それに、私たちが少しでもわき道にそれれば、私たちの主である王は、必ずそれをお聞きになります。そして、私たちが御前に大胆に立ちたいと願うその場所で、私たちを恥じ入らせるでしょう」
デマスはまた叫んで、自分もあなたがたの兄弟の一人だ、と言った。そして、少し待ってくれるなら、自分も一緒に歩いて行こう、と言った。
クリスチャン「あなたの名は何というのですか。私が今呼んだ名ではありませんか」
デマス「ええ、私の名はデマスです。アブラハムの子です」
クリスチャン「あなたのことは知っています。ゲハジはあなたの曽祖父で、ユダはあなたの父です。あなたはその足跡を踏んできました(第二列王五・二〇、マタイ二六・一四〜一五、二七・一〜五)。あなたのしていることは、悪魔のような悪だくみにすぎません。あなたの父は裏切り者として首をつりました。あなたもそれ以上の報いには値しません。覚悟しておきなさい。私たちは王のもとに着いたら、あなたのこのふるまいを王に申し上げます」
こうして二人は自分たちの道を進んだ。そのころには、下心とその仲間たちが、また見えるところまで来ていた。彼らはデマスに一度手招きされただけで、そちらへ渡って行った。さて、彼らは穴の縁からのぞきこんで、落ちたのだろうか。それとも、掘りに下りて行ったのだろうか。あるいは、底にいつもわき上がる毒気で、息がつまったのだろうか。そのことは、私にもはっきりとはわからない。けれども、これだけは見届けた。彼らは二度とこの道で見かけられなかったのである。そこでクリスチャンは歌った。
「下心と銀のデマスは、気が合う一方が呼べば、もう一方は駆けつけるその利得の分け前にあずかるために。こうして二人はこの世にとどまり、それより先へは進まない」