ジョン・バニヤン『天路歴程』

(十) 美しの家

やっと休憩小屋に着くと、クリスチャンはその場にへたりこんで泣いた。すこし経ってから(神のみこころによって)悲しげに椅子の下に目線をやった。そこに巻物があった。彼はふるえながら急いで巻物を拾い、ふところにしまった。巻物が見つかってどんなに喜んだことか。この巻物はいのちの保証であり、望みの天における通行証なのだ。彼は顔を上げて神に感謝した。喜びの涙にむせびながら旅を再開した。足取り軽く山を駆け上がった。ところが、太陽がだんだんと沈んできた。改めて時間を無駄にしたことが思い知らされるのだった。それでまた彼は嘆き始めた。ああ、お前は眠りこけて罪を犯した! 真っ暗になったらどうなるのだろう! 太陽なしで歩かなくては。自分の罪のせいで、闇が足元を覆い、動物の物悲しい鳴き声を聞かなくてはならないのだ! 〈臆病〉と〈不信〉が聞かせた話が思い出され、獅子を想像すると体が震えた。クリスチャンはひとりつぶやいた。「獅子どもが餌を探して歩き回るのは夜だ。暗闇の中で見つかったらどうやって逃れよう。ばらばらに食い殺されずに逃げられるだろうか」。不幸な過ちを嘆きながら歩いていたが、ふと目を上げると、前方に立派な邸宅が見えた。道沿いに建っているその邸宅の名前は〈美し〉といった。

私が夢の中で見ていると、クリスチャンはそこに急いだ。宿を借りられるかもしれない。しばらく進むと狭い道に入った。あと百メートルも歩けば守衛の詰所に着く。ところが、狭い道の途中で二頭の獅子に出くわした。不信と臆病が引き返した危険な場所というのはここのことだな、と彼は思った。(獅子はじつは鎖に繋がれていたが、暗くて見えなかった。)足が震え、自分も引き返そうかと考えた。目の前にあるのはまさしく死だ。ところが、ちょうど詰所の守衛が彼に気づいた。守衛の名前は〈慎重〉といった。慎重はクリスチャンが引き返そうと立ち往生しているのに気づいて、大声で呼びかけた。「あなたの力はそんなにも小さいのですか(マルコ4:40)。獅子を恐れてはなりません。鎖に繋いであります。信仰を試すため、また獅子が手出しできないことをわからせるために、そこに置かれているのです。道の真ん中をお歩きなさい。危害を加えることはありません」

クリスチャンはおびえつつも守衛の言うとおり真ん中を歩いた。獅子たちは恐ろしいうなり声をあげたが、危害は加えなかった。クリスチャンは手を叩きながら歩き、守衛のいる門の前に着いた。クリスチャンは守衛に言った。「このお屋敷は何でしょうか。一晩ここで泊めていただけませんか」。守衛は答えた。「この屋敷は、巡礼者の安全と休息のために主がお建てになったものです。あなたはどこから来て、どこに向かっておられるのですか」

クリスチャン「滅びの町から来ました。シオンの山に向かっております。日がもう沈んでいるので、よろしければ一晩泊めていただきたいのです」

守衛「お名前は何とおっしゃいますか」

クリスチャン「私の名前は今はクリスチャンです。が、最初は〈恵みなし〉という名前でした。私は、神がセムの天幕に住まうようにと祝福したヤペテの子孫です(創世記9:27)」

守衛「どうしてこんなに遅くなったのですか。もう日が暮れましたが」

クリスチャン「もっと早く着くはずでした。ところが、罪を犯しました。山の中腹にある休憩小屋で眠りこけてしまったのです! いえ、それだけならまだこんなに遅くならなかったのですが、眠っているうちに大切な証書を落としてしまい、そのまま山頂に登りました。それから証書をなくしたことに気づき、悲しくもそれを取りに小屋に戻らざるをえませんでした。それからやっとです」

守衛「さようですか。それなら、屋敷にいる乙女のひとりをここに呼びましょう。お話していただいて彼女が好意を持てば、他の家族の者にも会えることになっております。それがこの屋敷のおきてです」

慎重という名の守衛がドアベルを鳴らすと、かしこまった雰囲気の美しい乙女が門に来た。名前は〈分別〉といった。彼女は「どうしたのですか」と尋ねた。

守衛は答えた。「この方は滅びの町からシオンの山へと旅しておられます。ところが、暗くなりましたし疲れもありますから、今晩ここに泊めてもらえないか、とおっしゃっています。それであなたをお呼びしました。お屋敷のおきてのとおりに、彼とお話をしていただき、あなたのお気持ちのとおりにしていただこう、と彼に申しました」

彼女は、どこから来てどこへ行こうとしているのか尋ねた。また、どうしてこの道を志したのか、さらに道中で何を見たか尋ねた。彼は一つひとつ答えた。最後に、彼女は彼の名前を聞いた。「私はクリスチャンと申します。今晩、ここに泊めていただきたいのです。ここは、主が巡礼者の休息と安全のために建ててくださったお屋敷だと伺ったものですから」。彼女は微笑んだが、目に涙を浮かべていた。少し間を置いて、彼女は言った。「家族の他の者を連れて参ります」。入り口へと走り、三人を呼んだ。〈思慮〉、〈敬虔〉、〈慈愛〉が来て、なおしばらく彼と話し、それから屋敷の中に通した。「主に祝福された方よ、お入りなさい。この家は、主が巡礼者の慰労のために建てられたものです」。クリスチャンはおじきをし、彼らの後ろを歩いて屋敷に入った。屋敷内で座ると、飲み物が与えられた。夕食が用意できるまで、家族たちがクリスチャンのお相手をし、歓談の時を持つことにした。思慮、敬虔、慈愛が彼を囲んだ。

敬虔「ようこそいらっしゃいました。今晩、わが家に来てくださってうれしいです。よろしければ、巡礼の旅の道中で起きた出来事についてぜひお話を伺いたいです」

クリスチャン「歓迎してくださってありがとうございます。何でもお話します」

敬虔「巡礼の旅に出たきっかけを教えていただけますか」

クリスチャン「生まれ故郷にいたときに、恐ろしい声を聞きました。そこにとどまるなら滅びがわが身を襲うことは避けられない、と。それで急いで国を出ました」

敬虔「ご自分の国からこの道へはどうやって来られたのですか」

クリスチャン「神のみこころによります。といいますのも、私が滅びの恐れの下にいたとき、どこに逃れればよいかわからず震えて泣いているところに、たまたまひとりの方が来て、〈狭い門〉に行きなさいと教えてくださいました。彼の名前は伝道者といいました。自分ひとりではとても道を見つけられませんでした。それで、その道をまっすぐに行ったらこのお屋敷に着いたのです」

敬虔「解釈者の家には立ち寄りませんでしたか」

クリスチャン「立ち寄りました。そこで見せていただいたものは、一生忘れられません。中でも三つのものをよく覚えています。サタンの攻撃のさなかでもキリストが心に恵みを注ぎ続けてくださっていること。神のあわれみの希望から外れてしまった人が自分自身に対して罪を犯していること。それから、裁きの日が到来したという夢の話です」

敬虔「それで、その夢の話を聞けたのですか」

クリスチャン「はい、おぞましい光景だと思いました。その話を聞きながら胸が痛みましたが、聞けてよかったと思います」

敬虔「解釈者の家で見たものはそれが全部ですか」

クリスチャン「いえ、解釈者は立派な宮殿を見せてくださいました。そこにいる人たちは黄金の衣をまとっていました。ひとりの勇敢な男が来て、扉の前で守りを固めている門番をけちらしました。その男は、中に入るようにと招かれ、永遠の栄光を勝ち取りました。このことを思い出すと心が燃えます。ずっとその家に滞在したかったのですが、先に進まなければなりませんでした」

敬虔「他に何を見ましたか」

クリスチャン「他に、ですか。そうですね、さらに行くと、確かそうだったと思いますが、木にかけられて血を流している方を見ました。そのとたんに、背中の重荷が落ちました。それまで重荷に押しつぶされそうでしたが、初めて重荷が落ちました。見たこともない光景で、不思議に感じました。目が釘付けになっていると、三人の輝く方々が私のところに来られました。ひとりの方が、私の罪がゆるされたと宣言なさいました。もうひとりの方が、私のぼろ着を脱がせて、この立派な外套を着せてくださいました。三番目の方が私のひたいに、ほら、このような印をつけて、この封印された巻物をくださいました」

敬虔「まだ他にも見たものはありませんか」

クリスチャン「一番良い話はこれで全部です。が、他に見たものはあります。三人の男、〈浅薄〉、〈怠惰〉、〈厚顔〉が道の外れで眠っているのを見ました。鉄の足かせがつけられていました。とはいえ、私が三人を目覚めさせることができたとお考えになりますか。とうていできませんでした。また、〈形式主義〉と〈偽善〉が壁を乗り越えて道に入るのを見ました。二人はシオンに向かっていました。けれども、彼らはすぐに消えてしまいました。警告はしたのですが、信じてもらえませんでした。でも何よりも、この山を登るのと、獅子の口の横を通るのがたいへん骨折りでした。門の親切な守衛さんがいなければ、どうしたらいいか本当にわかりませんでした。引き返していたかもしれません。ですが、ここに来られたことを神に感謝します。私を受け入れてくださったあなたがたにも感謝します」

次に、思慮がいくつかの質問をして、彼の話を引き出した。

思慮「故郷の国のことを時々は思い出さないのですか」

クリスチャン「ええ、思い出すと、しかし恥と嫌悪感があります。もしも故郷の国のことばかり思いふけっていたら、戻りたくなったかもしれません。けれども、今はもっと素晴らしい国、天の御国を願っています(ヘブル11:15-16)」

思慮「故郷にいた頃に慣れ親しんだものを思い起こして、懐かしくなったりはしませんか」

クリスチャン「はい。私の意志に反してそうなることはあります。私の同胞は内なる肉の思いにふけっていました。私自身もそうでした。けれども、今はそうしたものは私にとって悲しみです。私は自分で物事を選択したいと願っています。もう二度と、あのような思いを選びたくありません。それなのに、私は心で最善を行いたいと願っても、最悪が私にまとわりつくのです(ローマ7:15-21)」

思慮「そのようなものを打ち負かしたと感じるときもあれば、逆に圧倒されるときもある、ということでしょうか」

クリスチャン「はい。打ち負かしたと感じることもたまにはあります。そういう時は、私にとって黄金の時間です」

思慮「いつその厄介な思いを打ち負かしたと感じたか思い出せますか」

クリスチャン「はい、考えてみると十字架を見上げているときがそうでした。また、この立派な外套を見ているときも。胸にしまった巻物を読んでいるときも。それから目的の地について思い巡らせ胸が熱くなっているときも」

思慮「では、シオンの山に行きたいという願いをあなたの中に駆り立てるものは何ですか」

クリスチャン「そうですね、シオンの山で、十字架にかけられて亡くなっていた方が生きておられるのを見たいという希望が私にはあります。また、今日までのすべての苦悩を取り去っていただけるという希望があります。そこには死がないそうです(イザヤ25:8、黙示録21:4)。そこでは私が最もお慕いしている方々と共に住まうことができます。といいますのも、真実を申し上げますが、私の重荷から解き放ってくださった方を私は愛しているからです。私は内にある病にうみ疲れました。もはや死ぬことがなく、聖徒と共に叫び続けたいのです。聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、と」

続いて、慈愛がクリスチャンに問いかけた。「ご家族はいらっしゃいますか。ご結婚はされていますか」

クリスチャン「妻と四人の小さな子供がいます」

慈愛「どうしてご家族をお連れしていないのですか」

クリスチャンはさめざめと泣いた。「ああ、どんなに連れて行きたかったことでしょうか! ひとり残らず巡礼の旅に猛反対したのです」

慈愛「けれども、家族とお話して、町に危険が迫っていることを伝える努力はすべきではありませんでしたか」

クリスチャン「もちろんしました。町が滅ぼされることを神が教えてくださったということも伝えました。家族の者は笑うばかりで、取り合ってくれませんでした」

慈愛「ご家族を説得しようとするときに、神が導いてくださるように祈りましたか」

クリスチャン「はい。心から祈りました。妻も子供も私にとっては本当に大切なのです」

慈愛「滅びに対するあなた自身の悲しみと恐怖は家族に伝えましたか。あなたにとって滅びは目に見えるほど明らかなことだったと思いますが」

クリスチャン「はい、何度も、何度も伝えました。私の恐怖が表情にも、涙にも、体の震えにも、表れていました。それを家族は見ました。私たちの頭上にあって今にも下されんとする裁きを思うと、本当に恐ろしかったのです。それでも、家族を連れてくることはできませんでした」

慈愛「それはどうしてなのでしょうか。ご家族は何かおっしゃっていましたか」

クリスチャン「妻はこの世を失うのが恐ろしかったのです。子供たちは若き日の愚かな楽しみにとらわれていました。それで私はひとりで旅に出るしかありませんでした」

慈愛「けれども、いくら言葉で説得しても、あなたご自身がむなしい生活をしていたとしたら、ご家族はついて行く気持ちにならなかったのではありませんか」

クリスチャン「確かに私は自分の生活を治められません。多くの失敗を犯していると自覚しています。また、いくら議論や説得で人からよく見られようと労しても、日常会話ですべてが水の泡になってしまうものだということも知っています。それでも私は、家族につまずきを与えないために、ふさわしくない言動を慎むよう心を砕いてきました。このことのために家族は私を几帳面にすぎると言いましたし、私も家族のためにどんな悪でも避けるように自己否定しました。いえ、つまり申し上げたいのは、もし私の中に家族のつまずきとなるものがあれば、神に対しても隣人に対しても罪を犯そうとする性質が私にあるということです」

慈愛「じっさいに、カインは兄を憎みました。カインの行いは悪く、兄の行いは正しかったからです(第一ヨハネ3:12)。もしご家族があなたの良い行いのゆえにあなたを非難したのなら、善に向き直れないことをみずから示したのです。その血の責任をあなたが問われることはありません(エゼキエル3:19)」

私が夢の中で見ていると、夕食の用意がととのうまでこのように彼らは談話した。用意が済むと、彼らは席についた。テーブルには豪華な食事と上等なワインが並んでいた。そこでの話題は、すべて主に関するものだった。主が何をしてくださったか、何のためにしてくださったか、どうしてこの建物を建ててくださったかを話した。家族たちの話によると、主は偉大な戦士であり、死の力を持つ者と戦って勝利なさったということだった(ヘブル2:14-15)。しかも、無傷でその戦いを終えたのではなかった。それを知って私は、主をますます慕わしく感じた。

家族との会話によると、主はその戦いで多くの血を流された。主のすべてのみわざにさらに恵みの栄光を加えたのは、それがご自分の御国に対するきよい愛に基づいているという事実である。さらに、家族の中には、主が十字架上で死なれたのちに、主とお会いして話をした者もいるという。また、家族が誓って言ったところによると、主はあわれな巡礼者たちを深く愛しておられ、そのさまは西から東までどこにも見られないものである、と主ご自身の口から語られたという。家族らはまた、自分たちが確信していることを話した。主は貧しい者のためにご自分から栄光をお脱ぎになった。主おひとりでシオンの山に住まわれないためである。また、主は、極貧に生まれた者、糞便の山から生まれた多くの者を、巡礼者の王子とされた。(第一サムエル2:8、詩篇113:7)

彼らは夜更けまで語り合った。それから主の守りを祈り、休むことにした。巡礼者は二階の広い部屋に案内された。そこは日の出の向きに窓が開いていた。部屋の名前は〈平和〉といった。彼は夜明けまで眠った。朝になると、起き上がって歌った。

「どこに私はいるのだろう。
これはイエスの愛顧ではないか。
巡礼者をかくも愛してくださる。
このように私はゆるされた。
いますでに天の扉の間近にいるのではないか!」

朝になって皆が起きた。家族たちは彼としばらく会話し、出発する前にこの場所の珍しいものを見てくださいと引き止めた。はじめに案内された場所は書斎だった。そこで貴重な古文書を見せてくれた。そこに書かれていたのは、私の記憶によると、主の系図だった。主は遠い昔に生まれ、永遠の世代の子であった。また、その書には主の行いが詳細に記録されていた。他にも、主が働きに招き入れた者の名前が数百人も書いてあった。主がその者たちを、年月によっても雨風によっても朽ちることのない家に住まわせたとも書いてあった。

それから、家族たちは彼に、主のしもべたちの行いの中で価値ある記録を読んであげた。彼らがいかにして王国を治め、公義を行い、約束を得、獅子の口をふさぎ、暴虐の火を消し、つるぎから逃れ、弱い者は強くされ、勇敢に戦い、異邦人の軍に立ち向かったか(ヘブル11:33-34)。それからまた、家族たちは別の記録を読んであげた。それによると、主はどんな人でも好意をもって受け入れてくださる。それこそ過去にひどい過ちを犯して、主の民を虐げた者でさえも受け入れてくださるというのだ。この屋敷には、他にもたくさんの有名な記録があった。クリスチャンはそのすべてを見た。古今東西の出来事、預言とやがて必ず起こる予見、それらのものは敵にとっては畏怖と驚異であり、巡礼者にとっては慰労と安堵である。

翌日、家族たちは彼を武器庫に案内した。そこで彼に見たのは、主が巡礼者のために用意したすべての装備だった。つるぎ、盾、かぶと、胸当て、すべての祈り、すり減らない靴。そういったものがずらりと並んでいて、主に仕える者が天の星ほどにいたとしても不足しないと思われた。家族たちはまた、主のしもべがたちが素晴らしい業績を行ったときに使用した物を見せてくれた。モーセの杖。ヤエルがシセラを打った槌とくい。ギデオンがミデアン人の軍と戦ったときのつぼと角笛とたいまつ。シャムガルが六百人を殺した牛の突き棒。サムソンが千人を殺したあご骨。ダビデがガテのゴリヤテを殺した石投げと石。主が立ち上がられる日に罪人を殺すつるぎ。他にも多くの素晴らしいものを見せてくれた。クリスチャンは非常に喜んだ。それから、またしばらく休んだ。

私が夢の中で見ていると、翌朝、クリスチャンが起きて出発しようとすると、家族たちはもう一日だけ泊まってくださいと引き留めた。

「晴れたら、素晴らしい山をお見せしたいのです。あれをご覧になれば、きっと励ましになります。あの山はこの場所よりも望みの天に近いですから」

それで、彼はもう一日留まることにした。昼になると、家族たちは彼を屋上に案内し、南の方を指さした。ずっと遠くに、世にも美しい山があった。あざやかな木々、ぶどう畑、さまざまな果樹、色とりどりの花々、泉と湧き水、それは見るも美しい風景だった(イザヤ33:16-17)。クリスチャンは山の名前を尋ねた。〈インマヌエルの地〉という名前だった。家族の話では、その地は巡礼者たちにとって、この丘と同じくらい親しみがあるということだった。

「あなたがそこに行かれたら、そこから天の都の門が見えるかもしれません。そこに住む羊飼いたちが見せてくれるでしょう」

さて、クリスチャンはそろそろ旅立とうと考え、家族たちも同意した。「その前に、もう一度武器庫にお寄りください」。武器庫に入ると、彼らは一式の装備品をクリスチャンに手渡した。道中で攻撃に見舞われても大丈夫なように、頭から足まで武具がひと揃い用意された。武具を身につけると、クリスチャンは家族たちと一緒に門まで歩いた。クリスチャンは守衛に、ここに巡礼者が通ったか尋ねた。守衛は「はい」と答えた。

クリスチャン「その方のことをご存知ですか」

守衛「お名前を尋ねると、〈忠実〉とおっしゃいました」

クリスチャン「ああ、その方なら存じております。故郷で、近所におられました。私の生まれた町から来られたのでしょう。今どのあたりにおられると思いますか」

守衛「今頃は、この丘のふもとに着いているでしょう」

クリスチャン「そうですか。守衛さん、主があなたと共におられますように。あなたが私に親切にしてくださったので、その報いにまったき祝福が増し加えられますように」