(七) 浅薄、怠惰、厚顔と、形式主義、偽善
私が夢の中で見ていると、クリスチャンは旅を続け、谷のふもとに出た。そこで道の外れに、三人の男が足かせにつながれたまま眠っていた。それぞれの名前は〈浅薄〉、〈怠惰〉、〈厚顔〉といった。
クリスチャンはこの三人が寝転がっているのを見て、彼らに近づき、起こそうとして大声で言った。「ここで寝るのは、船の帆の上で眠るようなものです(箴言23:34)。死の海があなたがたの下にあります。底知れぬ深淵です。ですから、起きてここを離れなさい。そうするおつもりなら、その足かせを外すのを手伝います」また彼は言った。「ほえたける獅子のように行き巡っている者(第一ペテロ5:8)が近づいたら、あなたはきっと牙をかけられて餌にされます。」すると彼らはクリスチャンを見つめて、こう返事をした。
浅薄「今のところどこにも危険を見かけませんよ」
怠惰「もう少し眠ろう」
厚顔「桶が立つのに支えなんていらないよ」
こうして彼らは再び眠りについた。クリスチャンは旅を続けた。
しかし、クリスチャンは悩んだ。せっかく男たちを起こしてあげて、危ないから離れたほうがいいと教え、獅子から救い出そうと進んで助けを申し出たのに、その優しさを軽くあしらわれたと思った。クリスチャンがそのことで考えあぐねていると、壁の向こうから二人の男が乗りこえて、せまい道の左側に着地するのが見えた。二人とクリスチャンは目があった。ひとりは〈形式主義〉といい、もうひとりは〈偽善〉といった。二人はクリスチャンのところで立ち止まり、会話が始まった。
クリスチャン「お二人とも、どちらから来られたのですか。またどこへ行かれるのですか」
形式主義と偽善「我々は虚栄の国で生まれました。そして、栄誉を得るためにシオンの山に向かっているところです」
クリスチャン「どうしてお二人は道の始めにある門から来なかったのですか。こう書かれているのをご存知ありませんか。『門からでなく、ほかの所からのりこえて来る者は、盗人であり、強盗である』(ヨハネ10:1)」
形式主義と偽善「入口の門は、我々の国からあまりにも遠いところにあるのです。ですから、こうやって壁をよじ登って近道するほうが簡単です」
クリスチャン「ですが、それでは私たちが目指す都におられる主に対して罪を犯し、主の啓示されたみこころを冒涜することになりませんか」
形式主義と偽善「どうぞご心配なく。我々の国では皆がしてきたことですから。千年以上もこの伝統が続いてきたという言い伝えもあります」
クリスチャン「それでも、神の法廷で裁きを受けるときに耐えられるでしょうか」
形式主義と偽善「この伝統は千年以上も前から受け継がれてきた確固たるものです。ですから公平な判断によって神の法にかなっていると見て間違いありません。それにひとたび道に入ったら、どこから入ったかなど問題になるでしょうか。道に入ったなら、もう入ったのです。あなたは確かに門を通ってこの道にいます。我々も壁を乗り越えてですがこの道にいます。あなたと我々の違いは何かあるでしょうか」
クリスチャン「私は主のおきてによって歩いています。あなたがたは気まぐれな空想のままに歩いています。この道を支配する主が、もうあなたがたを盗人と見なしておられます。ですから、道の終着点であなたがたは真実な者と認められないと思います。あなたがたは主のおことば抜きで自分自身を頼みにしてここに入ったのですから、主の恵み抜きで自分自身で出て行くことになります」
二人は言葉に詰まり、余計なお世話だ、と言い捨てた。それから、二人とクリスチャンはほとんど話さずに同じ道を歩いた。おもむろに二人は言った。「戒めとおきてに従うことに関しては、我々はあなたと同じくらい良心に忠実ですよ。だから、あなたと何の違いもありません。唯一の違いはあなたの着ている外套だけです。それは裸の恥を隠すために誰か隣人からもらったものでしょうか」。
クリスチャン「あなたがたは門から入らなかったのですから、戒めとおきてによっては救われません(ガラテヤ2:16)。私の着ている外套ですが、これは私が行った場所で主からいただいたものです。おっしゃるとおり、裸の恥をおおうためです。これは私への好意のしるしです。以前の私はぼろ布しか持っていなかったものですから。それと、旅の道中でこれが私を慰めてくれます。都の門に到着したとき、この外套を着ているために、そこにおられる主がきっと私を歓迎してくださると思います。この外套は、私のぼろ布を脱がせた主ご自身が気前よく私にくださったものですから。また、お気づきでないかもしれませんが、私のひたいには印が付けられています。これは、私の肩から重荷が落ちた日に、主に最も近しい方のひとりが付けてくださったものです。そのときにもうひとつ、封をされた巻物をいただきました。道中これを読んで慰めを得るようにと、また天の門でこれを通行証として手渡すようにと言われました。あなたがたは入口の門から入っていませんから、これらのものを欲しいと思われるのではないでしょうか」
二人は答えず、お互いに顔を見合わせて笑うだけだった。それから私が見ていると、彼らは道を続けたが、クリスチャンはもう二人と話さずに、ため息をついたり心踊ったりしながらひとり前に進んだ。また、輝く者たちから受け取った巻物を読んでは慰めを得た。