ジョン・バニヤン『天路歴程』

(四) 狭い門

クリスチャンはもとの道に戻ることにした。伝道者は彼に口づけをしてほほえみ、祝福を祈った。それからクリスチャンは先を急いだ。道中、誰にも話しかけず、また誰かに話しかけられても答えなかった。まるで禁じられた地に足を踏み入れた者のように、自分は安全ではないと考えた。やっとのことで、世の賢者から助言を聞いて出発した地点に戻った。そこからしばらく歩いて、クリスチャンは門に到着した。見上げると、こう書いてあった。

『門をたたけ、そうすれば、あけてもらえるであろう』(マタイ7:7)

クリスチャンは門を叩いた。一度、二度、それからもう一度。

「ここに入れてもらえませんか。中におられる方、あわれな私のために開けてもらえませんか。私はこれまで、中に入るのにふさわしくない反抗者でしたが、もし入れていただけるなら、必ずやいと高き方の永遠の賛美を歌います」

しばらくして、威厳のある人が門に来た。好意という名前だった。「どなたですか。どこからお越しになりましたか。何を求めて来られましたか」

クリスチャン「ここにいるのは、重荷を負ったあわれな罪人です。滅びの町から参りました。やがて来る御怒りから救われるため、シオンの山に向かっております。この門がそこに至る道であると聞いたものですから、私を通していただけるかどうか教えていただけませんか」

好意「そういうことでしたら喜んで」

好意は門を開けた。

クリスチャンが中に入ると、間をおかずに守衛は門を閉じた。それで、クリスチャンは「どうしてそうするのですか」と尋ねた。

「この門から少し離れたところに、ベルゼバブの治める堅固な城があります。そこからベルゼバブとその手下どもが、この門に来る者を中に入る前になんとか殺そうとして、矢を射って来るのです」

クリスチャンは安堵して「恐ろしいですね」と言った。それから守衛は「誰に教えられてここに」と尋ねた。

クリスチャン「伝道者に教えていただきました。あなたが私に何をすべきかを教えてくれるはずだ、と」

好意「目の前に扉が開いています。誰もそれを閉じることはできません」

クリスチャン「ようやく、危険を犯してきた分の報いを刈り入れるようになるのですね」

好意「しかし、どうしてひとりで来られたのですか」

クリスチャン「私は自分の身に起こる破滅を理解しましたが、隣人たちはそれを理解しなかったからです」

好意「誰かあなたが行くことを知っていますか」

クリスチャン「はい、はじめに妻子が私を引き止めました。私の隣人のうち数人は、懸命に私を引き止めました。でも、私は耳を指でふさいで、自分の道を行きました」

好意「でも、あなたを戻そうと説得するために付いてくる人はいませんでしたか」

クリスチャン「強情と軟弱がいました。ですが、説き伏せることができないとわかると、強情は帰ってしまいました。軟弱は私と一緒にしばらく行きました」

好意「とはいえ、ずっと一緒だったわけではないのですね」

クリスチャン「私たちは失望の沼まで一緒に来ました。そこで隣人の軟弱は、意気沮喪して、先に進めなくなりました。自分の家のある側に沼から這い出て、勇気の国へはあなたひとりで行くがいい、と私に言いました。それで彼はもとの道を帰り、私はこうして来ました。彼は強情のところに、私はこの門に来ました」

好意「ああ、あわれな人。天の栄光は彼にとって、少しの困難や危険を乗り越えてでも得ようとするに値しないほどのものだったのですね」

クリスチャン「そうです。軟弱に関してお話ししたことは事実です。ですが、私自身のことをお話しすると、彼と私は似たりよったりです。彼が自分の家に戻ったのは事実ですが、私も死の道に外れて行きました。世の賢者という人の肉の議論に説き伏せられて、そこに行きました」

好意「そうですか、彼と会ったのですか。彼はきっと、遵法に助けを求めて平穏を得なさいというふうに仕向けたのでしょうね! あの二人はまったくひどい詐欺師です。あなたは彼の助言を聞き入れてしまったのですね」

クリスチャン「はい。遵法に会いに行ったのですが、途中の山が頭上に落ちそうだったので、そこで立ち止まらざるを得ませんでした」

好意「その山で大勢の人が死にました。これからも犠牲者は増えるでしょう。岩に打たれて死ぬ前に逃げられてよかった」

クリスチャン「私がそこで打ちひしがれて呆然としているときに、もしも伝道者が幸いにももう一度私のところに来てくださらなかったら、私はどうなっていたかわかりません。しかし、神の恵みですね、伝道者が私に会いに来てくださいました。そうでなければ、私はここに来ていません。私はこうして来ましたが、このような者ですから、私の主とこうしてお話するよりも、あの山で死んでいたほうがふさわしかったかもしれません。しかし、ああ、なんという恵みでしょうか。この入り口を通ることをゆるされるとは!」

好意「ここに来る以前にどんなことを行った人であっても、私たちは拒絶しません。愚か者でも追い出されません(ヨハネ6:37)。ですから、善良なクリスチャンさん、私と一緒に少し歩きましょうか。あなたが進むべき道について教えます。前を見てください。この狭い道が見えますか。これがあなたの進むべき道です。族長が、預言者が、キリストが、キリストの使徒たちが行った道です。完全にまっすぐです。これがあなたの進むべき道です」

クリスチャン「しかし、初めて来た人が道に迷うような曲がり角やうねり道はありませんか」

好意「この道から枝分かれする多くの道があります。それらは曲がりくねっていて広いです。しかし、あなたは正しい道と間違った道を見分けることができます。正しい道は、まっすぐで狭いのです(マタイ7:14)」

私が夢で見ていると、クリスチャンは彼にさらに尋ねた。「この背中の重荷を取るのを手伝ってもらえないでしょうか。自分では取れないものですから。誰かの助けなしには全く取れません」

好意「あなたの重荷に関しては、解放される場所にたどり着くまでは甘受しなさい。その場所に至れば、それはひとりでに落ちます」

こうして、クリスチャンは腰の帯を閉め、旅を続けることにした。好意は、「門からしばらく進むと、解釈者の家に着きます。そこで扉を叩きなさい。彼が素晴らしいことを教えてくれます」と言った。それから、クリスチャンは友のところを発ち、好意は神の祝福を祈った。