クレメンスの第一の手紙 / ローマのクレメンス

51-60 章

51:1 敵の謀略に陥って私たちが犯したすべての咎に対して、ゆるしをいただけるように求めようではありませんか。そうです、党派や分派の指導者になった者たちも、希望の共通の土台を見つめるべきです。
51:2 恐れと愛のうちに歩む者たちは、隣人が苦しむよりは自分が苦しむことを願います。高潔に正しく言い伝えられた調和をぶち壊しにするくらいなら、彼らは自分を罪に定めます。
51:3 神のしもべモーセに逆らって騒乱を起こした者のように、心をかたくなにするくらいなら、不法の罪を告白するほうがその人にとって良いからです。モーセに逆らった者の罪ははっきりと露わにされました。
51:4 彼らは生きたまま陰府にくだり、死が彼らの羊飼いとなったのです。
51:5 パロと彼の主人とエジプトの全総督、それから戦車と騎馬隊が、紅海の深みに飲み込まれました。彼らが罰せられたのは、神のしもべモーセの手によってしるしと不思議がエジプトの地にもたらされたにもかかわらず、愚かな心がかたくなになったからにほかなりません。

52:1 兄弟たち、主が何かを必要としているなどということはまったくありません。主が人に願われているのは、ご自分への告白以外に何もありません。
52:2 選ばれたダビデがこう言っています。「私は主に告白する。告白は、角とひずめの育った若い子牛にまさって、神に喜ばれる。貧しい者にそれを知らせよ、そうすれば喜ぶ。」
52:3 また、ダビデはこう言っています。「賛美のいけにえを神にささげよ。あなたの誓いをいと高き方に果たせ。苦難の日にはわたしを呼べ。わたしはあなたを救い、あなたはわたしを崇めよう。」
52:4 神へのいけにえは砕けた霊だからです。

53:1 親愛なる方々、聖書をよくご存知でしょう。神の啓示をあなたがたは丹念に調べました。ですから、私たちがこれらのことを書いたのは、あなたがたに思い出してもらうためです。
53:2 モーセが山に入って、四十日四十夜を断食と謙遜で過ごしたとき、神はモーセに仰せられました。「モーセよ、モーセよ。今すぐに山をおりなさい。あなたがエジプトの地から導いたわたしの民が、邪悪を働いている。あなたが命じた道から、民はあっというまに外れてしまった。自分たちのために鋳像を造った。」
53:3 そして、主がモーセに仰せられました。「わたしはあなたに一度また二度話した。わたしはこの民を見たが、うなじのこわい民であった、と。わたしにこの民をひとり残らず滅ぼさせよ。わたしはこの民の名を天の下から除き去ろう。そして、わたしはあなたをこの民よりも偉大で素晴らしく数の多い国にしよう。」
53:4 そこでモーセは言いました。「おやめください、主よ。この民の罪をゆるしてください。そうしてくださらないなら、私をいのちの書から取り去ってください。」
53:5 ああ、力ある愛です! ああ、この上ない完全さです! しもべは主人にかたく結びついています。彼は多くの者のゆるしを願い、そうしてくださらないなら自分も彼らと共に除き去ってくださいと請うのです。

54:1 ですから、あなたがたの中で高潔な者は誰でしょうか。あわれみ深い者は誰でしょうか。愛をまっとうする者は誰でしょうか。
54:2 その者に言わせなさい。「もし、私のせいで分裂と闘争と分派があるのなら、私は退き、あなたがたのいるところを去り、民に命じられていることをしよう。キリストの群れは、正式に任命された長老によってのみ平和を保つようにすべきなのだから。」
54:3 これを行った者は、キリストにあって大きな名誉を勝ち取り、あらゆる場所で受け入れられます。地は主のものであり、そこに満ちているものも主のものだからです。
54:4 神の御国の市民として生活する者は、そのように行ってきましたし、これからもそうするでしょう。そこに後悔はまったくありません。

55:1 それだけでなく、異邦人の例も出すことにしましょう。多くの王と支配者が、疫病の時期が降りかかったとき、啓示によって教えられて、自分の血によって仲間の民を救うために、自分自身を死に引き渡しました。多くの者が、騒乱を鎮めるために自分の町から退きました。
55:2 私たちのうちの多くの者が、他の人を買い取る身代金として、自分を捕らわれの身に引き渡したことを私たちは知っています。多くの者が、他の人を養うために、自分を奴隷の身に売り渡し、その対価を得たのです。
55:3 多くの女性が、神の恵みによって強められて、男性のように勇ましく事を遂行しました。
55:4 さいわいなユディトは、町が包囲されたとき、自分が異国人の陣営に苦しみを受けに行かせてほしいと、年長者に頼みました。
55:5 それで、彼女は包囲されている自分の国と民を愛する愛のために、みずからを危険にさらして出て行きました。そして、主は、ホロフェルニスを彼女の手に明け渡してくださいました。
55:6 エステルも同じように、信仰においてまったき者でしたから、イスラエルの十二部族が危機に陥ったときに、彼らを救うために自分を危険にさらしました。彼女は断食と謙遜を通じて、世々の神である主を見るように皆に求めました。そして、神は、彼女の魂の謙遜を見たので、彼女が民のために危険を犯したのを顧みて、民を救ってくださいました。

56:1 ですから、罪の中にある者のためにとりなしの祈りをしようではありませんか。忍耐と謙遜が彼らに与えられ、最後には私たちに身をゆだねるのではなく、神のみこころに身をゆだねるように。彼らが神と聖徒たちを心から思いやって覚えるなら、豊かで完全な実りが彼らに与えられます。
56:2 親愛なる方々、私たちが懲らしめを受け、誰にもとやかく言わせないようにしようではありませんか。私たちがお互いに与えた訓戒は、良いもので、格別に有益なものです。私たちを神のみこころに結びつけるからです。
56:3 聖なることばがこう言っているとおりです。「主は私を懲らしめたが、私を死に引き渡さなかった。」
56:4 主はご自分の愛する者を懲らしめ、ご自分が受け入れた子を罰せられるのです。
56:5 こう言われています。義人は恵みによって私を懲らしめ、とがめるが、罪人の恵みは私の頭に油を注ぐ。
56:6 また、主は仰せられます。「主がおとがめになる者はさいわいである。あなたは全能者の訓戒を拒んではならない。主は傷つけるが、また主は直してくださる。
56:7 主は打ちたたいたが、主の御手が癒した。
56:8 六度、主はあなたを苦難から救い、七度目には悪はあなたに触れられない。
56:9 飢餓にあっては、主はあなたを死から救い、戦争にあっては、主はあなたを剣の刀身から解放する。
56:10 舌の苦難から主はあなたを隠し、あなたは悪が近づくときも恐れない。
56:11 あなたは不義な者と悪い者をあざ笑い、野の獣も恐れない。
56:12 野の獣もあなたと共に安らう。
56:13 そのとき、あなたの家が平和であることをあなたは知る。あなたの天幕に悩みはない。
56:14 あなたの子孫は多く、あなたの子供らは野の広大な草のようになることを、あなたは知る。
56:15 あなたは、相応しい季節に収穫された熟した麦束のように、また正しい時に集められ脱穀場に積まれた山のように、墓に行く。」
56:16 親愛なる方々、おわかりでしょう。なんと素晴らしい守りが、主に懲らしめられた者にあることでしょうか。優しい父であるために、主は私たちを懲らしめ、最後には私たちが主の聖なる懲らしめを通して恵みを得るようにしてくださいます。

57:1 ですから、騒乱の原因を作ったあなたがたは、長老たちに服従し、心からひざまずいて、懲らしめを受けて悔い改めなさい。
57:2 あなたの舌のおごり高ぶったかたくなさを捨てて、服従することを学びなさい。キリストの群れにほとんど注目されないが神の巻物にあなたの名が記されていることは、素晴らしい誉れを受けながら神の希望から投げ捨てられるよりは、あなたにとって良いのです。
57:3 『まったき高潔な知恵』でこう言われています。「見よ、わたしはあなたのために、わたしの息のかかったことばを注ぎ、わましのことばを教えよう。
57:4 わたしは呼んだが、あなたは従わなかった。わたしはことばを発したが、あなたは聞かなかった。わたしの忠告には素通りで、わたしの叱責に従わなかった。だから、わたしはあなたの破滅を笑い、あなたに滅びが来るとき、また混乱があなたにとつぜん臨むとき、また転覆がつむじ風のように近づくとき、わたしは喜ぼう。
57:5 また、あなたがわたしを呼んでも、わたしはあなたに耳を傾けない。悪しき者はわたしを探さず、わたしを見出さない。彼らは知恵を憎み、主への恐れを選ばす、わたしの訓戒に頭を向けもせず、わたしの叱責をあざわらったからだ。
57:6 だから、彼らは自分の道の実を食べ、みずからの不敬虔で満たされる。
57:7 彼らは赤子に悪を働いたので、殺される。裁きが不敬虔な者を滅ぼす。だが、わたしに聞く者は、安全に住み、希望をもって信頼し、あらゆる恐れとあらゆる悪から離れて静まっていられる。」

58:1 ですから、最も聖なる最も栄えある神の御名に従順になろうではありませんか。それによって、『知恵』の口が不従順な者に対して語った恐ろしい出来事から逃れ、神の厳粛な最も聖なる御名に信頼して、安全に住まうことができるのです。
58:2 私たちの訓戒を受け入れなさい。そうすれば、あなたがたは後悔することがありません。神が生きておられ、主イエス・キリストが生きておられ、選びにあずかった者の信仰また希望である聖霊が生きておられるのですから、心のへりくだりと穏やかな時をもって神に与えられた戒めと命令をためらいなく実行する者は、イエス・キリストによって救われる者の数にその名が加えられます。イエス・キリストによって神に栄光がとこしえにありますように。アーメン。

59:1 ですが、私たちを通じて主が語られたことばに不従順であるような人が万が一にでもいれば、その人たちが自分で招いている罪と危機は決して取るに足りないものではないということを理解させなさい。
59:2 しかし、私たちはこの罪に関して潔白です。私たちは、粘り強い祈りと嘆願をもって、全世界から集められた選びの民に数えられた者たちを、宇宙の造り主が終わりの時まで傷のないまま守ってくださるように求めます。彼らは、神の愛する御子イエス・キリストを通じて選ばれたのです。神はこの方を通じて、私たちを暗闇から光へと、また無知から神の御名の栄光のまったき知識へと召してくださいました。
59:3 [主よ、聞き入れてください。]私たちが、すべての被造物にとって第一の源泉であるあなたの御名に希望をおきますように。私たちの心の目を開いてください。私たちがあなたを知りますように。あなたは、ただひとり、聖の聖なるところ、高みのいと高きところに住まわれます。あなたは高慢な者を低くし、低い者を高くあげ、高い者を低くされます。あなたは人を豊かにし、貧しくされます。人を殺し、生かします。ただひとりあなただけが、霊を生かす方、すべて肉なるものの神です。あなたは深淵を見通し、人の働きを見抜かれます。危機にある者を助ける方、絶望にある者を救う方。すべての霊の造り主、監督者。あなたは国々を地に増え広がらせ、あらゆる人々の中からあなたの愛する御子イエス・キリストを通じてあなたを愛する者を選び出してくださいました。この方を通して私たちを導き、きよめ、栄誉を与えてくださいました。
59:4 主また主人よ、あなたが私たちの助けとなり、救援となってくださるよう懇願いたします。私たちのうちで苦難の中にある者をお救いください。低い者に恵みを与えてください。落ちた者を引き上げてください。窮乏する者にあなたご自身を示してください。不敬虔な者を癒やしてください。あなたの民の迷える者を回心させてください。すべての異邦人に、あなただけが神であり、イエス・キリストがあなたの御子であり、私たちがあなたの民またあなたの牧する羊であることを知らせてください。

60:1 あなたはそのお働きを通じて世界のとこしえの形を現してくださいました。主よ、あなたは地を創造されました。あなたは全世代にわたって忠実です。あなたの裁きは義です。力と卓越は驚嘆するばかりです。あなたは創造において知恵が深く、被造物の完成において思慮深い。あなたは見えるものにおいて良く、あなたに信頼する者に対して忠実であられ、あわれみといつくしみに富み、私たちの罪と不義と背きと欠点をゆるしてくださいます。
60:2 あなたのしもべとはしためのすべての罪の責任を私たちに負わせないでください。私たちをあなたの真理のきよさによってきよめてください。私たちが聖と義と一心で歩み、あなたの目にも、私たちの支配者の目にも喜ばれる良いことを行えるように、私たちの足取りを導いてください。
60:3 そうです、主よ、あなたの御顔を私たちのために平和のうちに私たちの上に輝かせてください。私たちがあなたの力強い御手で守られ、あげられたあなたの御腕であらゆる罪から救われますように。また、私たちを誤って憎む者たちから救い出してください。
60:4 私たちと、地に住むすべての者に、調和と平和を与えてください。私たちの父祖たちがあなたをきよい信仰と真実をもって呼んだときに、あなたは調和と平和を与えてくださったように。[そうして私たちをお救いください。]私たちはあなたの全能で比類なき御名と、地上での私たちの主権者と支配者とに従いますから。