クレメンスの第一の手紙 / ローマのクレメンス

0-10 章

0:1 ローマにある神の教会から、コリントにある神の教会へ。神のみこころにより、私たちの主イエス・キリストによって召され聖別された方々へ。イエス・キリストによって、あなたがたに恵みと全能の神からの平和がますます豊かにありますように。

1:1 私たちの上に惨事と困難がいっぺんに何度も降りかかったため、兄弟たちよ、親愛なるあなたがたの間で勃発した争いと、忌むべき罪深い騒動に注意を向けるのがいくらか遅れたと思います。この騒動は、神に選ばれた者にとってまったく相応しくないものですが、ごく少数のかたくなで利己的な人たちが焚きつけたものです。そのせいであなたがたの名は、以前はすべての人の目に尊敬され評判が良く愛されていたのに、今や地に落ちてしまいました。
1:2 というのも、あなたがたのところに住んでいる者のうち誰が、あなたがたの高潔で揺るがない信仰を認めなかったのでしょうか。誰が、あなたがたの真面目で忍耐強い、キリストにある敬虔さを称賛しなかったのでしょうか。誰が、あなたがたのすばらしい親切な気持ちを言い広めなかったのでしょうか。誰が、あなたがたの完全で健全な知識を褒めなかったのでしょうか。
1:3 なぜなら、あなたがたはすべての事を人からの評価にかかわりなく行い、神の命令を守り、支配者に従い、年長者に相応の敬意を払ってきました。若者にも、謙遜で分をわきまえた考えをするように諭しました。女性にも、非難されるところなく分をわきまえたきよい良心をもってすべての義務を果たし、妻として夫の世話をするように命じました。妻たちが従順の戒めを守り、思慮深く分相応に家の務めをするように教えました。

2:1 また、あなたがたはみな心からへりくだっていて、高ぶりから解放されていました。従順を主張するよりも従順を行い、受けるよりも与えることを喜びとし、神が与えてくださるもので満足していました。また、キリストのことばに注意を向け、熱心にみことばを心の中に蓄え、キリストの苦しみを自分の目の前に置きました。
2:2 それで、深く豊かな平和と、善を行おうとする飽くなき願望がみなに与えられました。聖霊も豊かにあふれ出て、みなにくだりました。
2:3 あなたがたは聖なる弁護者に満たされ、すばらしい熱意と敬虔な信頼をもって、全能の神に腕を伸ばして、どんな罪でも意図的に犯すことのないようにと憐れみを願いました。
2:4 あなたがたはすべての兄弟たちのために、神の選びにあずかった人々が心に恐れと熱心をもって救われるようにと、日夜奮闘しました。
2:5 あなたがたは誠実であり、質素であり、お互いに悪意を抱きませんでした。
2:6 どんな騒乱もどんな分裂も忌まわしいものとして避けました。あなたがたは隣人の罪を嘆き悲しみ、隣人の欠点を自分のものとして裁きました。
2:7 あなたがたは何か良い行いをしなかったことを悔いたのではなく、むしろあらゆる良い働きを進んで行いました。
2:8 気高い徳と高潔な生き方で身を飾って、あなたがたは神を恐れつつすべての義務を果たしました。主の戒めと命令があなたがたの心の板に書かれていました。

3:1 あらゆる栄光があなたがたの上に与えられ、その勢いは増すばかりでした。そして、書かれているとおりのことが起きたのです。私の愛する方々が食べ、飲み、増長し、次第に肥え太り、変わってしまいました。
3:2 それゆえ妬みとそねみが、もめごとと騒乱が、虐待と暴力が、戦争と捕囚が来ました
3:3 それで、人々はかき乱されました。卑しい者が正しい者に、評判の悪い者が評判の良い者に、愚かな者が賢い者に、若者が年長者に敵対しました。
3:4 このため、義と平和は離れ去りました。誰もが主への恐れを捨て、信仰が暗くなり、主の命令に従って歩むこともキリストにならって生きることもやめ、自分の悪い心の欲望に任せて生き、不義で不敬虔な嫉妬を心に抱くようになりました。死が世界に入ったのも、その嫉妬を通じてだったのです。

4:1 というのも、こう書いてあるとおりです。「ある時期になって、カインが地の農作物を神に捧げるために持ってきた。アベルも羊の初子を肥えたものの中から持ってきた。
4:2 そして、神はアベルとその捧げものを顧みたが、カインとその捧げものは顧みなかった。
4:3 それで、カインは激しく悲しみ、顔を伏せた。
4:4 神はカインに言われた。『なぜあなたは悲しんでいるのか。なぜ顔を伏せているのか。あなたが正しく捧げて、正しいことを曲げたのでないなら、あなたは罪を犯していないではないか。あなたの平和を保て。』
4:5 彼(罪)があなたに向いているが、あなたはそれを支配しなければならない。』{この最後の節はこう訳すこともできる。「平和でいなさい。あなたの捧げものはあなた自身に返る。それであなたは再びそれを手にするようになる。」}
4:6 だが、カインは兄弟アベルに言った。『さあ、野原に行こう。』そして、野原にやってくると、カインはアベルに襲いかかり、殺した。
4:7 兄弟たち、おわかりでしょう。妬みとそねみが兄弟を殺人者にしたのです。
4:8 嫉妬によって、私たちの父ヤコブは彼の兄弟エサウの顔を避けて逃げました。
4:9 嫉妬によって、ヨセフは迫害を受けて死にそうになり、奴隷の身分にさせられました。
4:10 嫉妬に追い立てられて、モーセはエジプトの王パロの顔を逃れました。自分の同国人から「誰があなたを私たちの裁判官や指導者にしたのか。昨日エジプト人を殺したように、私を殺そうというのか」と言われました。
4:11 嫉妬によって、アロンとミリアムは宿営の外に追い出されました。
4:12 嫉妬によって、ダタンとアビラムは、神のしもべモーセに立ち向かい、生きたまま陰府に下りました。
4:13 嫉妬によって、ダビデはペリシテ人に妬まれたばかりでなく、(イスラエルの王)サウルにも迫害されました。

5:1 けれども、昔の例から離れて、私たちの時代に最も近い時に生きた闘士たちについて考えましょう。私たちの世代に生きた高貴な人々の例を見ましょう。
5:2 嫉妬によって、最も偉大で正しい教会の支柱が迫害され、死に至るまで戦いました。
5:3 あの善良な使徒たちを目の前に思い浮かべましょう。
5:4 ペテロがいました。彼も嫉妬によって、一度ならず何度も苦役に耐え、自分の証を負って、任命された栄光の場所に行きました。
5:5 嫉妬と争いのゆえに、パウロは身をもって、耐え忍んで賞を獲得することを示しました。それから、彼は七度縛られ、国外追放され、石で打たれ、東でも西でも宣べ伝え、信仰の報酬である高貴な栄誉を勝ち取りました。
5:6 世界中に義を教え、西の果てまでたどり着きました。パウロが支配者たちの前で自分の証を負ったとき、彼は世から分離し、聖なる場所に行きました。そこで彼は忍耐の法則を発見したのです。

6:1 この聖なる生き方をした人たちのほかにも、選びにあずかった非常に多くの人たちが、多くの恥辱と拷問を通じて嫉妬の犠牲になりながら、私たちの間で勇敢に例を示してくれました。
6:2 嫉妬のゆえに、女性たちは迫害され、 Danaids と Dircae のように残酷で罪深い侮辱に苦しみ、無事に信仰の競走を目的地まで走り抜き、肉体にあっては弱かったものの、高貴な賞を受け取りました。
6:3 嫉妬は妻と夫の仲を引き裂き、私たちの父アダムの言った「これこそ私の骨の骨、私の肉の肉」という言葉を反故にしました。
6:4 嫉妬といさかいが偉大な町々を破壊し、偉大な国々を根こそぎにしました。

7:1 親愛なる方々、私たちがこう書いたのは、ただあなたがたに忠告するためだけでなく、私たち自身も覚えているためなのです。私たちも同じ名簿に連なり、同じ競争が私たちを待っているからです。
7:2 そういうわけですから、偶像や空しい思想を捨てましょう。私たちに手渡された栄えある尊い掟に従いましょう。
7:3 何が良いことか、何が喜ばれるか、何が私たちを造られた方の目に受け入れられるのかを見極めようではありませんか。
7:4 キリストの血に目を留め、それが御父にとってどれだけ高価なものであったかを理解しようではありませんか。その血は私たちの救いのために流され、世界中で悔い改めの恵みとなって、魂を勝ち取ったからです。
7:5 今度は、すべての世代を見渡して、主がどのようにして世代から世代へと、神に立ち返ることを願う悔い改めのための場所を人々に与えたかを見ようではありませんか。
7:6 ノアは悔い改めを宣べ伝えました。そして、従う者は救われました。
7:7 ヨナはニネベの人々に破滅を宣告しました。けれども、彼らが自分の罪を悔い改めたので、神が彼らの嘆きを顧みてくださって、神にとって異邦人ではあった彼らが救いを受け取りました。

8:1 聖霊による神の恵みの伝道者も、悔い改めについて語りました。
8:2 そうです。宇宙の主である神ご自身が誓いをもって悔い改めについて語っておられます。
8:3 「わたしは生きている、と主は言われる。わたしは罪人の死を望まない。それよりも罪人が悔い改めることを望む。」
8:4 それから神は恵み深い裁きをも加えています。「ああ、イスラエルの家よ。あなたの不正を悔い改めなさい。わたしの民の息子たちに言いなさい。あなたの罪が地から天に届くとしても、その罪が緋色よりも赤く荒布よりも黒いとしても、まったき心でわたしに立ち返るなら、聖なる民に耳を傾けるようにわたしはあなたに耳を傾ける。父よ、そう言いなさい。」
8:5 別の箇所でも、神はこのことについて仰せられています。「洗って、きよくなりなさい。不正をあなたの魂から、私の目から取り去りなさい。不正を行うのをやめなさい。善を行うことを学びなさい。裁きを求めなさい。過ちから身を守りなさい。孤児のために裁きをしなさい。やもめのために義を行いなさい。そして、来て、共に論じ合おう、と主が言われる。たとえあなたの罪が紅のように赤くても、雪のように白くしよう。緋色のようでも、羊毛のように白くしよう。もしあなたが喜んでわたしに聞き従うなら、あなたは地上で良い物を食べる。しかしもしあなたが喜んでわたしに聞き従わないなら、剣があなたを滅ぼす。主の口がこう語ったのである」
8:6 そういうわけで、神はその愛するすべての者に悔い改めを望んでおられるので、その全能のみこころの行為によってそのことを確証したのです。

9:1 ですから、神のすばらしい栄えに満ちたみこころに対して、従順になろうではありませんか。私たち自身を神の恵みと善を求める嘆願として捧げ、神の前に身を投げ出して、神のあわれみを請い、むなしい労苦と口論と死に至る嫉妬とを捨て去ろうではありませんか。
9:2 神のすばらしい栄光に完全に仕えた者たちに目を留めようではありませんか。
9:3 エノクを私たちの前に置きましょう。従順において義と認められたエノクは、死を見る前に移されました。
9:4 ノアは忠実とみなされました。世界の刷新を宣べ伝えることがノアの奉仕でした。ノアを通じて主は、警告に従って箱舟に入った生ける被造物を救いました。

10:1 アブラハムは、「友」と呼ばれていました。アブラハムは神のことばに従順である点において、忠実と見なされました。
10:2 アブラハムは従順を通じて、故郷から、親族から、父の家から出て行きました。狭い土地から、弱々しい親族から、小さな家から去って、神の約束を受け継ぐためでした。
10:3 神が彼に仰せられたからです。「故郷から、親族から、父の家から出て、わたしの示す地に行きなさい。わたしはあなたを偉大な国に導き、あなたを祝福して、あなたの名を偉大にする。あなたは祝福される。あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたを呪う者をわたしは呪う。地のすべての部族はあなたによって祝福される。」
10:4 また、アブラハムがロトから離れたとき、神はアブラハムにこう仰せられた。「目をあげなさい。あなたが今いる場所で見渡しなさい。北から南まで、日の登るところから海まで。あなたが見渡すこのすべての土地を、わたしはあなたとあなたの子孫にとこしえに与える。
10:5 わたしはあなたの子孫を地のちりのようにする。地のちりを数えられる者がいないように、誰もあなたの子孫を数えられなくなる。」
10:6 また、こうも言われています。「神はアブラハムを導いて彼に仰せられた。『目をあげて天の星を数えてみよ。星を数えられるか。あなたの子孫もこのようになる。』アブラハムは神を信じた。それで彼は義とみなされた。」
10:7 アブラハムの信仰と親切のゆえに、老齢になって息子が与えられました。また、従順によって、彼は息子を神への供え物として、神の示した山で捧げました。